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【主人公】光源氏(ひかる げんじ):帝と薄幸の更衣との間に生まれた皇子。絶世の美男子 藤壺(ふじつぼ):桐壺帝の妃、源氏の亡き母親にそっくり。一人息子は実は源氏との子 葵の上(あおいのうえ):左大臣の娘、後ろ盾がなかった源氏の政略結婚相手 紫の君(むらさきのきみ):藤壺の姪。10歳ごろまで祖母の尼に育てられていたが源氏に拉致され二条の屋敷で育てられている [protagonist] Genji; a prince born to an emperor and an unfortunate wife, the most beautiful man of all time Fuji-tsubo; Queen of the Emperor Kiri-tsubo. She resembles Genji's mother. Her only son is actually Genji's son Lady Aoi; Daughter of the Left Minister, a political marriage partner for Genji who had no patron Young Purple; niece of Fuji-tsubo, had raised by her grandmother until she was about 10 years old, when she was abducted by Genji and now lives in his residence on 2nd avenue Playlist: https://youtube.com/playlist?list=PLJov1NnDE_N8SsW5UKTXZUbll1QNLvsUU スクリプトーーーーーーーーーーーーーーー 源氏は22歳になった。天皇が替わって、朱雀帝の時代になった。源氏の父、桐壺帝は院になって、藤壺の息子を次の皇太子に指名すると、藤壺といっしょに院の御所へ引っ越した。朱雀帝の母は宮中に残ったから、その父、右大臣の力が強くなった。それで院は源氏に、皇太子の後見を頼んだ。 源氏は複雑だったが、嬉しかった。しかし、藤壺に会うことがもっと難しくなったから、やる気がなくなった。あちこちにいる恋人たちに会いに行くことも少なくなった。 天皇が替わると斎宮も替わる。斎宮は伊勢の神宮の巫女で、天皇の血筋の独身女性でなければならない。新しい斎宮は、六条御息所の娘が選ばれた。御息所は、皇太子だった桐壺院の弟と結婚したが、その皇太子が病気で亡くなって、今は源氏の恋人の一人になっている。しかし最近は、源氏が彼女に会いに行くことはほとんどない。御息所は悲しくて、寂しかった。源氏のことを諦めて、娘といっしょに伊勢へ行きたいと思った。そのことを知った桐壺院は、源氏を呼んで叱った。 「御息所は元皇太子妃だ。いいかげんに扱ってはいけない。もっと大切にしなさい」 源氏は居心地が悪かった。人の噂は怖い。自分と御息所の関係を院までが知っている。六条の女にもっと気を遣わなければならないと思った。しかし御息所自身が、源氏より7歳年上だから気を遣って、源氏に遠慮していた。天皇の子、源氏にも強く言える立場だが、何も言わなかった。それで源氏も、彼女を特別に扱わなかったのだ。源氏の正妻、葵の上も、夫とたくさんの恋人たちとの噂を聞いて、源氏を恨んでいたが、何も言わなかった。言っても源氏は変わらないと思っていた。どちらも冷たい、と源氏は思った。 やがて葵の上が妊娠した。いつも完璧すぎて冷たかった妻が、初めての妊娠で不安になって、自分に弱みを見せたり、頼ってきたりしたから、源氏は妻を愛おしく思いはじめた。それで、六条の女に気を遣う暇は無くなった。 天皇、斎宮といっしょに、賀茂神社の巫女、斎院も替わる。新しい斎院は桐壺院の三女だった。賀茂神社の祭の前の日、新しい斎院の潔斎の儀式に若くて美しい貴族の男たちがたくさん参加した。もちろん源氏も参加した。その行列をみんな見たかったから、その日は一条大通りが人や牛車でいっぱいになった。 葵の上は妊娠で気分が悪かったが、侍女たちが源氏を見たがったから、仕方なく車に乗った。しかし、もう遅い時間だった。沿道にはもう車をとめる場所がなかった。従者たちは身分が低い人たちをみんなどかせて、無理やり車をとめた。葵の上は左大臣の娘で源氏の妻。主人の身分が高いから、その従者たちは誰にでも偉そうだった。 前のほうに、古くて小さいが、趣味がいい車があった。身分が高い人がお忍びで来ているのだ。 「ダメだ。この車は他とは違う。どかせることはできない」 その車の従者たちは動かなかった。葵の上の従者の中には酒をたくさん飲んで酔っ払っている者もいたから、すぐに喧嘩が始まった。それは六条御息所の車だった。やがて気が付いた葵の上の従者の一人が言った。 「おい、こっちは源氏の君の奥様の車だぞ。愛人ごときが、偉そうにするな」 御息所は車の中で絶句した。お忍びで来たのに、なんという屈辱! 自分は元皇太子妃だが、今は愛する男に会いに来てもらうこともできない。こんなところに隠れて来てまで彼の愛を求めている自分を、正妻が見つけて笑っているのだと思った。 葵の上の従者たちは御息所の車を壊して、後ろの方へ押しやった。御息所は今すぐ帰りたかった。なんて悔しい。恨めしい。 やがて、「見えた! 行列が来た!」と言う声が聞こえた。御息所は、それでも一目源氏を見たかった。 源氏は馬の上から、沿道の人たちを見ていた。いくつか恋人たちの車を見つけて、笑顔を見せた。葵の上の豪華な車はすぐわかった。源氏の従者たちはその前で敬意を表した。御息所の車には、源氏も誰も気がつかなかった。 美しい貴族たちの中で、源氏の君は誰よりも美しかった。その姿を見ることができて、御息所は嬉しかった。しかし正妻から受けた屈辱を思うと、壊れた車の中で涙がこぼれた。 次の日は、賀茂祭だった。葵の上は屋敷から出なかった。源氏は前の日の喧嘩のことを聞いて、御息所が可哀そうだと思った。それで六条へ会いに行った。しかし御息所は「娘が潔斎をしているから、私も男性と会うことは控えます」と言って、会ってくれなかった。 源氏は葵の上のところは行かないで、二条の屋敷へ戻った。可愛い紫の君を牛車に乗せて、いっしょに祭りを見に行った。しかし、今日はもっと人がいっぱいだった。 車をとめる場所を探していると、ちょうどいい場所にとまっている車から女が扇で彼を呼んだ。源氏はその隣に車を寄せた。「ありがとう。でも、どうしてこんなにいい場所をとることができたんですか。うらやましい」と源氏が言うと、女は扇に和歌を書いて彼に渡した。 『ああ悔しい! あなたに逢える今日を楽しみに待っていたのに、あなたは他の女を連れているのね』 源氏の牛車は、御簾の下から紫の君の着物の裾がちょっと見えている。源氏の恋人の一人が乗っていることは明らかだった。二条の秘密の恋人だろうと、みんな噂した。そんな車を横に呼んだ女性も、誰だろうかとみんな注目していた。源氏は、扇の字を見てすぐわかった。 典侍だ。もう65歳くらいだが、相変わらず元気な女性だ。彼女だったら、女連れの車で隣にいても変な噂を心配しなくていいだろう。それはそれで、ちょっとつまらないなと源氏は思ったが、自分への愛をまっすぐ言葉にしてくれる女性といっしょにいるのは、悪くなかった。 ------------------------------------つづく
